ペプチドワクチンの臨床試験

ペプチドワクチンの臨床試験

少し古くなりましたが 10月15日の朝日新聞の一面八段と社会面六段
に見過ごしに出来ない大きな記事が掲載されていました。

一面八段の記事の出だしは次のようなものです。
「「東京大学医科研(東京都港区)が開発したがんペプチドワクチン臨床試験
めぐり、医科研付属病院で2008年、被験者に起きた消化管出血が
重篤な有害事象」と院内で報告されたのに、医科研が同種のペプチドを
提供する他の病院に知らせていなかったことがわかった。・・・・・・・・・」」

社会面六段の記事は次のとおりです。
「「がんペプチドワクチン臨床試験で起きた「重篤な有害事象」(消化管出血)
を他施設に伝えていなかった東京大学医科学研究所。被験者の安全を考え、
別の施設の有害事象に関する情報提供を求めた他の大学病院の関係者は、
「なぜ知らせてくれなかったのか」といぶかった。」」

この朝日新聞の一面と社会面のトップを使った大きな記事は
複数の重大事故の隠ぺいを告発しているのだと思い 読み進んだのですが
どうも様子が違いました。
がんペプチドワクチン臨床試験中に起きた 「有害事象」の情報の共有化が
適切に行われていなかった例が一例見つかった。」というだけの話のようです。
臨床試験中の「有害事象」の情報の共有は勿論大切なことではありますが
天下の朝日新聞の 一面と社会面の両面のトップに載せるべきニュース価値が
あるとは到底思えません。

どうしてこんなことが起こったのでしょう。
朝日新聞の編集機能と能力が恐ろしく劣化しているのでこんな記事を載せて
しまった というのでは いくらなんでもそれは朝日新聞に失礼でしょう。
朝日新聞は明確な意図を持ってこの記事を載せていると考えるべきです。
と、なると この記事がねらっていることは「がんペプチドワクチンつぶし」
あるいは 「その関係者つぶし」ということになります。

昨年(2009年) 日本では34万4000人ががんで死亡しました。
1981年以来 死亡原因の第一位はがんです。
07年4月に「がん対策基本法」が施行され 先進国の中では遅れていた
がん対策を前進させようと動きだしたところです。
がんはとても複雑な病気で 発症の原因は 患者が10人いれば 10の別々の
原因なのですから 対応する治療法を数多く用意しておかねばなりません。
がんペプチドワクチン」もそのひとつになるだろうと がん患者はその研究の進展を
期待していました。
勿論 新薬の開発が大々的に発表された後 当初の期待通りの成果があがらなくて
開発中止になることはいくらでもあります。 
しかし そういうことは 開発者や研究者が検討をして結論をだすことであって 
新聞記者がその判断をする当事者ではないはずです。

私がこんなことを書いているのは この記事を読んでいると 1981年
8月に 厚生省(現・厚労省)が 薬事審議会を使って「丸山ワクチン不認可」
を決めた際 朝日新聞が 厚生省の意向をくんで「反丸山ワクチン」の
キャンペーン記事を何度も掲載したことを思い出したからです。
当時の朝日新聞の記者は きちんと出されたデータを故意に読み違えて記事にし、 
その元データを提出した研究者 学者の信頼性を貶めることをしました。
丸山ワクチンは死なず 永田孝一著 kkビッグセラーズジャパン刊より)
開発者の丸山千里は当時すでに80歳になろうとしていた高齢でしたから
程なく研究の一線からは退きましたが 丸山千里の共同研究者や協力してくださった
学者の方々には「丸山ワクチン」に係わったことで その後の研究活動に
結果として 多大なご迷惑をお掛けしたことになってしまいました。
特に若い研究者が被ったダメージは 計り知れないものがありました。
そのことが いまだに続く臨床現場での「丸山ワクチン・タブー」の一因でもあります。
朝日新聞のように影響力のあるマスコミが 悪意を持った記事を書くと 組織に属してはいても 仕事を個人の責任で発表する学者や研究者は あっという間に吹っ飛んでしまいます。
今回の記事は このプロジェクトの中心にいる学者をターゲットにしていますから 
学問の ひとつのジャンルが壊滅しかねません。
そんなことになったら がん患者は がんと闘う武器を「丸山ワクチン」だけでなく
がんペプチドワクチン」も失うことになります。

私は朝日新聞を何度も読み返しました。
記事の意図は解らないものの 悪意があることだけは感じられます。
その悪意は何から出ているのでしょうか。
記事の後半に触れられている 研究費と国費との関係を問題にしているのでしようか。
それを問題にするのなら ストレートにその問題をとりあげるべきです。
新聞は 不正を告発するのも使命ですが 福祉の向上を手助けし 応援するのも
大きな使命だとおもいます。

がん治療の先端技術を開発しているプロジェクトの足を引っ張るような
訳のわからない記事を載せることは止めてもらいたいものです。