がん治療業界の業界用語は解りずらい

がん治療業界の業界用語は解りずらい

私の知人の奥さんが がんの終末期に入り 入院していた某医大付属病院を
退院し自宅に戻ることになり ようやく丸山ワクチンが使えるようになったので
よろしくという連絡がありました。
今年の初めに入院し 状態がすでに極めて重篤だと判った時点で
丸山ワクチンの使用を担当の主治医にお願いしたのですが
けんもほろろの態度で拒否されたそうです。
しかし 全ての抗がん剤が効かなくなり 某医大附属病院では
このあとの治療方法がなくなったので退院し ホスピスか 近くの病院、あるいは
かかりつけの先生に診てもらえということになりました。

治療方法がもう他に無いのなら丸山ワクチンを使いたいという患者の家族
の希望にお医者さんが快く応じてくれればいいと思うのですが なかなか
そんな雰囲気にならないようで 患者さんの家族と某医大付属病院の担当主治医との
関係は悪くなったまま退院しました。

お医者さんとがんの患者の関係はとても難しいのです。
その関係を解説してくれている本があります。
「がんの最後は痛くない」大岩孝司著 文藝春秋社刊です。
以下はその本の42ページからの引用です。

病院は病気をみつけて治すところです。
医師は病気を治すために必要な検査や治療をします。
治れば誰も文句は言いません。
説明してもらっても何だかよく分らないけれど、まあいいか というのが、治る病気で
病院に行った患者さんの心境ではないでしょうか。
問題は治らない病気の場合です。
治らない場合に医師の説明不足が問題になります。
がんの場合はなおさらです。
医師は言いにくい事を言わないわけでもないのです。
どちらかというと説明していることのほうが多いように思いますが、
患者さんは、なにも聞いていない、そんなつもりはなかった、ということが
じつに多いのです。
それは患者さんの側の受け止め方を勘案して伝えていないからです。
「治療をしましよう」は 「治る」ということではないのですが、
患者さんの側からすると 「治してくれる」と都合よく解釈することが
多いようです。
冷静に「先生から説明を受けたはずなのに覚えていないようです」とか
「うちの人の耳には、良いことしか聞こえないようです」と話す
家族もいます。
抗がん剤が効いている」と医師から言われると「治ってきている」 と思う
人も多いようです。
抗がん剤が効いている」というのはがんが治るということではありません。
がんには抗がん剤がよく効くものと効かないものがあり、抗がん剤
治るがんも少しずつ出てはきましたが、多くのがんでは抗がん剤が効くことが
治ることに繋がるわけではありません。
たとえば、肺がんの中で肺小細胞がんは、抗がん剤放射線治療が大変
良く効くがんで、以前より治る人が増えてきました。
しかし、「影も形もなくなったと言われたから、治ったのかと喜んでいたら、
次の検査では元の大きさに戻っていた」 と嘆く人がいるように、
効くことが治ることに繋がるのは、ほんの一部の患者さんだけです。
このようにがんは、抗がん剤放射線で影が消えたとしても、
手術で全部切除したとしても、その時点で治ったかどうかは分りません。
「一応治った」と判断されるには、定期的に検査を受け、五年後
(がんによっては十年後)に再発が確認されない必要があります。
ですから、手術ができないか、できても取り残しがある場合、
あるいは抗がん剤放射線が効いているけれども影が残っている場合には、
その後は「治らない」ということを前提にした治療になります。
しかし、説明を受けている患者さんや家族は、「効いている」と医師に
言われると「治る」事を強く期待し、「治るための治療を受けている」
という前提で医師の話を聞くので、誤解が積み重なってしまうのです。

この短い文章のなかに お医者さんと がん患者や患者家族との認識の
「ずれ」がどのように起こっているかが解説されています。

「治療をしましょう は 治る ということではないのです」
という文章があります。 えー、違うんですか? とビックリしますよね。
普通 患者が病院にくのは 治ることを前提にお医者さんの前に座ります。
ですから お医者さんが「治療をしましょう」と言ってくれたら
治してくれるものだと思うじゃないですか。
しかし がんの場合は 「治療をしましょう は 治るということでは
ないのです」と言われても納得できません。
お医者さんは がん患者を毎日診ているのですから 「治療をしましょう」
が 「治る」には繋がらないというのが常識なのでしょうが、
がん患者にとっては あたり前のことですが がんの経験は初めてなので
「治療しましょう」という言葉は 「治る」を期待できる言葉として 脳に
インプットされます。
ですから お医者さんはそのことを丁寧に患者に説明してほしいものです。

抗がん剤が効いている と医師から言われると 治ってきている と
思う人も多いようです」という文章も同じです。
抗がん剤が効いている」と言われたら 「治ってきている」と思うのが
日本語の正しい受け取り方だろうとおもいます。
しかし がん治療業界用語では「抗がん剤が効いている、というのはがんが
治るということではありません。」ということですから 患者のほうが
がん治療にあたるお医者さんの使う用語の意味を前もって知っていなければ
ならないのです。

この本をお書きになった大岩孝司先生は 千葉大医学部肺がん研究施設外科部門に入局、
そのごいくつもの病院勤務のち千葉市に「さくさべ坂通り診療所」という
在宅緩和ケア専門の診療所を開設され 終末期のがん患者の在宅療養に
あたられています。
 長いがん専門の臨床医としての経験をもとにお書きになっていますから
がん治療の現場医師の現状を知るにはたいへん役にたちました。

 大岩先生のように がん患者の立場を十分に理解なさっていても がん患者の
納得できる 説明を 患者さんに出来ているとは思えません。
私なんかが発言すると とかく現状のがん医療の負の部分を告発することに
急なあまり 患者さんの参考にならないことが多くなります。
そこで 本日のブログを患者さんの役に立つように 無難にまとめるならば、

1、 お医者さんは 毎日ほぼ同じ説明を繰り返すことに飽きていますから 
患者にとって重要な事項の説明を省略しがちです。 
患者は がん治療の概略を 本やインターネットを使い自分で調べてから 
お医者さんの説明を聞かないと お医者さんの真意を理解できません。
がんという病気は 残念ながらこうすれば治るという治療法がないのです。
お医者さんも 一人一人の患者さんごとに 手探りで治療をしているので 
本当は自信がないのですから 判断は患者自身がするしかない局面が
何度も出てきます。
ですから 患者は勉強しなければなりません。
2、 お医者さんは とても忙しいので患者さんに説明するときに つい 
業界用語を使いがちです。
抗がん剤が効いている」「治療しましょう」という言葉は がん治療業界の
業界用語ですから 「抗がん剤が効いている」は「治って来ている」を
意味していないし 「治療しましょう」は「治る」を意味しないことを 
予め知っておいた方がトラブルを起こしません。
3、 病院は 病気を見つけて治すところですから お医者さんは
ぎりぎりまで 治る方策を求めてしまい勝ちですから 治療を
 どこで打ち切るかは 患者が決断しなければなりません。
 お医者さんは 抗がん剤治療や 放射線治療を施していても 
 自分がその治療による副作用を経験したことはないのですから 
その治療の副作用が 耐えられる程度なのか 耐えられないほど
なのかは お医者さんにはわかりません。
 副作用に耐えられる限度を超えているのかどうかは 本人じゃなければ
判りません。
ここでも 患者が勉強しなければならない必要性がわかるとおもいます。

私達は がんが発見されるとお医者さんから治療方針を提案されます。
最近は それを受けるか 他の方法を選ぶのかは患者の自己責任だと
いうことになっています。
さらに病状が進行するとそのあとをどうするかも 患者が決めなければ
なりません。
主治医から「もう治療はない」と言われた時 それに対する対応が
「医者に見捨てられた」と思うか どうかは患者の準備次第だと思います。
「もう治療はない」といわれてからも 生き続けるわけですから
意味ある時間を過ごすにはどうしたらいいのかも考えておかなければ
なりません。

お医者さんと なるべくトラブルなしに付き合うには がん患者は
どうしたらいいのかを がん患者の立場から書きました。

現在 毎年100万人を超える人ががんにかかり 35万人ちかくのひとが
なくなっています。
ですから がんにかかってしまうということは 突然わが身を襲った不幸
ということではなくて 人生の途中で必ず遭遇する必然なのだと
思ったほうがいいのかも知れません。
そうであるならば くりかえし述べておりますが がんに関する勉強は
がん患者は勿論のこと がんを気にする年代になったらがんになる前から 
しておいた方が良いのです。